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2011年4月16日土曜日

第521回 マル激トーク・オン・ディマンド(2011年04月16日)~ビデオニュースドットコム~

第521回 マル激トーク・オン・ディマンド(2011年04月16日)
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なぜ「専門家」は信用できないのか
ゲスト:平川秀幸氏(大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授)

福島第一原発で深刻な事故が起きて以降、「専門家」から繰り返し発せられる「ただちに健康に影響はない」、「人体にすぐに影響を与える値ではない」という言葉をそのまま受け止めて良いものなのか、「専門家」への疑心暗鬼が広がっている。
 科学技術をいかに社会が制御するか(科学技術ガバナンス)を研究する大阪大学コミュニケーションデザイン・センター准教授の平川秀幸氏は、専門家の言う安心と一般市民の考える安心には埋めがたいギャップがあり、われわれが「専門家」の言うことをすべて信用できないことには理由があると話す。
 例えば科学者の「100万人に1人の確率でしか起こらないから安心だ」という説明は、全体を見てリスクを考える統治者側からの目線だ。リスクにさらされる一般市民の側は、その1人に自分や自分の家族が当たった場合どうするかを考えるため、到底受け入れられない。つまり、同じ「安心」にも統治者と当事者の目線の違いからくる対立が生まれる。
 全体のリスクを考える視点は必要だが、確率的に起こり得なくとも心理的に恐怖を感じることも安心できない理由であり、市民感覚や当事者の意見がすべて非合理であるということにはならない。専門家の意見はそのようなバイアスが掛かったものだという特殊性に気付いたうえで、問題を考える必要があると平川氏は言う。
 また、専門家の側には「一般市民は無知だから反対する」という考えがあり、正しい知識を与えれば皆が受け入れるはずであり、それでも反対する人は反体制のイデオロギーを持った人だとみなす構図があると平川氏は言う。日本での原発をめぐる議論は、まさにその典型だった。
 これまで、原発を推進する産官学の「原子力ムラ」の研究者以外から様々な警告が出されてはいたが、その証拠が十分強くなかったことなどから無視された。原発に反対する一般市民の様々な意見も、反体制のイデオロギーを持つものとみなされて考慮されることはなかった。そもそも科学は不確実なものであり、科学だけで答えを出せるものではない。日本で原発が推進されてきたのは、科学的な政策決定に市民が参加する枠組みがなく、一部の専門家だけが原発のリスクについて価値判断をしてきた結果だと平川氏は言う。
 現在日本で起きているような「科学や専門家への不信」は、イギリスでは86年のBSE(狂牛病)問題で顕在化し、解決策が模索されてきた。当時の最新の科学的知見に基づき、政府はBSEに対して「安全宣言」を出したが、その後ヒトへの感染が確認され、政府もその危険を認めることになった。これをきっかけに科学や政府への信頼は危機に瀕し、政府と市民社会が、理解し合い納得して合意を作る仕組みが作られてきた。
 重視されたのは、政府が証拠に基づいて政策を決定することはもちろんだが、その証拠自体をいかに信頼できるものにするかという点だ。政府での議論をオープンにして外からの批判を受け入れ、NGOやシンクタンク、市民などの複数の見解が競合することによってチェックし合う仕組みを考えた。一方の市民社会にも、まず専門家に限られていた研究資源を利用できる制度を整えたうえで、とにかく反対と叫ぶだけでなく、証拠に基づいて政府の政策を批判することが求められた。このような努力が、この10年行われてきたと平川氏は説明する。
 BSE問題の後、遺伝子組み換え作物(GMO)の導入が問題になった際には、「科学が不確実なことは当たり前である」ことを前提にして、「科学では白黒がはっきりしない」、「白だ、黒だと専門家に言われたとしても、そんなふうには言いきれないものだ」と保留して、簡単には受け入れないという態度が広く共有されたという。具体的には、パブリック・コメントや総計2万人が参加した内閣府主催の討論会に基づいて、政策決定がなされた。
 原発のリスクに対する価値判断についても、われわれ一般市民を含む社会に情報を公開し、社会が政策を選択する制度設計が必要だと平川氏は話す。従来の工学的な専門家だけではなく、感情や社会・文化的価値にも配慮できるように、領域をまたぐ専門家や、専門家と素人をつなぐミドルマンと呼ばれる存在も欠かせない。
 なぜ、われわれは「専門家」を信用することができないのか。そして、われわれは「専門家」だけが担ってきた科学的な政策決定に、どのように関わることができるのか。平川氏とともに、神保哲生、宮台真司が議論した。

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