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2011年1月5日水曜日

未決囚のあいだ

 自弁(自費)で購入できるものはいつでも買えるわけではなく、月曜から金曜までの間に、月曜は食品、火曜は惣菜、水曜は雑品、木曜は郵便などと決められていて、それをこの階の担当看守が毎朝ワゴンを押しながら「願い事!食品!」と言って廊下を歩き、頼むものによって色分けされたマークシートを配ります。それにリストに載っている番号と個数を書いて渡し、届くのは3日後になります。
 「願い事」と言うのはまさしく「願い事」で、トイレの紙や洗剤や歯磨き粉をもらったり、体調がすぐれなければそれを伝えたりしますが、中には出来ない相談をする人もいるようで、担当が「そんな事できるわけねーだろ!バカヤロー!」などと怒鳴っているのが聞こえることもありました。
 私が入った5月10日の月曜日は、丁度タイミングが悪く、雑品を頼めるのが翌週の月曜日だったため、ノートもペンもなく支給されたのは19日になってしまい、日記や手紙を書くことも出来ずにそれまではただひたすら貸し出しの本を読み続けていました。
 本の貸し出しは週に2回あり、これもリストから選んで3冊借りられますが、私はこの階の66部屋中最後の66室だったため、面白そうな本はたいがい貸し出されていて、ほとんどあまり興味のないものばかり借りる羽目になりましたが、それでもすることがないので、毎日一冊以上は読破していました。



<未決のあいだに読んだ本>
マイファミリー/森 瑤子
幻の声/宇江佐 真理
生き方/稲盛 和夫(自本)
生きる/池田 みち子
果心居士の幻術/司馬 遼太郎
斬る!/柴田 錬三郎
復活/トルストイ
冬の花火/渡辺 淳一
夜の子供たち/柴田 勝茂
ビルマの竪琴/竹山 道雄

 
 独居房(単独室)の辛さの一つは、人と話すことがないことです。朝の「願い事」の時に担当看守に頼み事をする以外、人との会話はなく自然と独り言が多くなります。よくテレビに向かって話しかける人がいますが、ここにいるとラジオに話しかけたり、読んでいる雑誌に向かって話しかけたりするようになります。
 日常生活では感じることはほとんどありませんが、時計がないこともかなり不便です。7時の起床と10時、15時にはチャイムが鳴りますが、それ以外は腹時計しか頼るものがありません。特に9時の消灯以降は、夜中に目が覚めても何時なのかさっぱりわからず、鉄橋を渡る電車の音が多いか少ないかで判断したりします。しかし、人間の体内時計は大したもので、慣れてくると(あと100数えると7時だ)とか思いながら試している内に、5秒と違わずにチャイムが鳴るようになります。
 朝は7時にチャイムが鳴り、看守が廊下で「起床!」と大声で怒鳴ります。布団をたたんで顔を洗い、「点呼!」の声がかかると食器口の上の小窓の前で正座して待ち、廊下を順番に廻ってくる看守に顔を見せて、自分の番号を言います。私は、世田谷警察署では15番でしたが、ここでは人が多いせいか3201番でした。
 その後すぐに朝食になり、プラスチックの平皿と深皿2枚を食器口の台に乗せて待ちます。配膳は、この拘置所で懲役を受けている受刑者が3人ほどで一部屋ずつまわり、みそ汁とおかずを容器に入れて、麦飯の入ったドンブリを配ります。料理はおいしいとは言えませんが、ほとんどのものが味が薄く、未決囚の間は自分で購入した醤油や塩をかけたり、もう一品惣菜を加えたりして食べることができます。朝飯はみそ汁と納豆や味海苔、ふりかけなどが出ますが、2週間に一度くらいの割合で「きなこ」がでます。桜でんぶもきつかったですが、この「きなこかけごはん」は最後までなじめませんでした。
 昼食は朝昼晩の三食の中で一番ボリュームもあり、肉や魚がでますが、やはり美味しいとはいえません。ただ、月に一度の特別食の時には大きめのエビフライが2本出たり、レトルトのウナギの蒲焼きが出たりもします。夏場は夕食のデザートに氷りアイスが出たこともありました。
 食品衛生上、生ものは一切出ないので、普段はあまり食べたいと思わない、サラダが食べたくなります。ある日、夕食に野菜とフレンチドレッシングが出たので喜びましたが、それは生ではなく、温野菜で温かく、そこにフレンチドレッシングをかけた味が最高に不味くて、口に運んだ瞬間吐き出してしまったことがありました。

  


  食事が毎日の唯一の楽しみで、あとは本を読むか何か書いているかしかすることがないので、色んな事が気になったりします。
 3時はチャイムの代わりにオルゴールが流れるのですが、これが本物のオルゴールをサンプリングしたもののようで、テンポがバラバラなのは仕方がありませんが、最後の11,12小節目の音がやたらと気持ち悪い不協和音で、この音を聴くたびになんとかならんものかと思ったりしていました。




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