国を失った日本人(1) 海の汚染、はじまったか?
ある出版社が、「外国」の環境団体が測定したデータを送ってくれました。
それによると、5月5日に江名港での測定では、アカモク(海藻)から放射性ヨウ素が基準値の60倍、セシウムが3倍でした(フランス環境団体測定)。
また四倉港のコンブ(5月5日)はヨウ素が50倍、セシウムが4倍で、海草類に汚染が拡がっていることを示しています(ベルギー原子力研究センター測定).
おそらく海藻の表面か、海水から直接、吸収したものと思われます.
また、勿来港のシラス(5月9日)は、ヨウ素は低いのですが、セシウムは2.2倍含まれていました。
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福島原発の事故が起こった直後、日本人にとってもっとも大切な情報は「風向き」でしたが、気象庁は「俺の任務はIAEAに報告するだけ。日本に国民がいるとは思わない。勝手に被曝しろ!」と言って応じず、原発から北西の人たちが被曝しました。
3月下旬、私が風の情報をドイツ気象庁、ノルウェー、それにイギリスから得ていたとき、本当に哀しくなりました。
日本人が自分の命を守るために、日本の気象庁ではなく、ドイツの気象庁までデータをとりに行かなければならない。それも100年に1度もない気象上の緊急事態なのに・・・
哀しい・・・
今まで、真面目な日本、誠意のある日本、シッカリした役所などを信頼していた私。江戸時代から明治にかけての日本がヨーロッパより優れた文化を持っていたと書き続けてきた自分.
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そして、また今、海洋国家日本が食材の中心となっている魚の汚染データを外国から得なければならなかったのです.
日本の海の関係機関や学者はデータを持っているのか、それを隠しているのか判りませんが、多くの人たち、お母さん方が「海は大丈夫かしら」と心配していることが判らないのでしょうか?
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私たちは、国を失いました。自分で行きます!
夏に向かって、魚の汚染が進み、貝、海藻の心配が増えます.また釣り、潮干狩り、サーフィン、海水浴のシーズンになりますが、国を失った民は当面、データがでないから諦めなければならないでしょう。
そのほかにもいくつか、問題点があります。
1)
今回は、データ自身のつじつまは合っていますが、外国の環境団体のもので、信頼性がまだ十分ではないこと、
2)
海ではストロンチウム、プルトニウムが問題だが、まだデータが無いこと、
3)
この汚染がどのぐらい拡がっているかが判らないこと、
4)
海藻の汚染が早く、魚(中型が今から、大型が7月からと予想していましたが)の汚染が少し早まる可能性があること、
5)
基準値は「それだけが汚染されている」という基準だから、「足し算」をしなければならない時には、基準値を10分の1にしなければならないから、すでに100倍ぐらいもあり得る、
ということです。
具体的には、三陸沖、北海道、四国沖、九州沖、沖縄、日本海の海産物を選んでください。
海の人に呼びかけたいと思います.
「食べる人が安心して買うことができるように、自分たちの手で測定してください。「自分の仕事より子供達の命」という日本人としての誠意を持って」
(平成23年5月26日 午前9時 執筆)
国を失った日本人(2) 空中分解した国、子供を被曝させる
ある読者の方から、厚生労働省の「お母さん向けパンフレット」を送っていただきました。
このパンフレットは、厚生労働省が多額の税金を使って大量に配布したもので、データは一切、書いてありませんが「放射線は安全だ、基準を守れば赤ちゃんは安全だ」を繰り返しています。
厚生労働省の中にはお医者さんもたくさんおられ、国民の健康を守るために、「健康ニッポン」などの大がかりなキャンペーンを展開しているのに、実に不思議です.
福島原発の事故が起こってから国は、
1) 外部からの線量の限度を、1年1ミリから1年20ミリにした(内部はわずか2%の査定)、
2) 水の限度を10ベクレルから300ベクレルにした、
3) 食材は魚を含めて急遽決めて、コメも含めて約500ベクレル(キログラムあたり)(魚は2000,コメ500、野菜300など)、
から、少し前のブログに書いたように、
「国を信用して、基準値を守る生活をすると、子供の被曝は1年に50ミリシーベルトになる」
というきわめて過酷な状態になるのです.
でも、このパンフレットのように、厚生労働省はそのデータを示さず、「基準を守れば赤ちゃんを守ることができる」と言っています(悪魔の言葉ではないか?).
本当に国は、1年20ミリとか50ミリで良い、「法律を守っている」と思っているのでしょうか?
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実は違うのです。
5月25日、「国」の原子力保安院は、「被曝について法律違反をした」という理由で東電を厳重注意処分にしました。
その理由は、
(1)第2原発で4月21日まで管理区域の設定基準を超える線量が測定されながら、線量管理をしなかった、
(2)放射線業務従事者でない女性5人が、放射線管理の必要な区域で勤務し、うち2人が一般の線量限度である年1ミリシーベルトを超えて被ばくした、
ということです。
そして、
「保安院は、作業員全員が携行できる線量計の確保や、通常時と同様に3カ月に1回内部被ばくの評価ができるよう機器を早期に整備することなど、7項目の改善策を東電に指示した。
第1原発では地震発生直後から女性計19人が作業に従事。女性の放射線業務従事者について国が定めた被ばく線量の限度「3カ月で5ミリシーベルト」を2人が超えるなど、放射線管理の不備が判明していた。」
と伝えています。
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私たちは国を失いました.税金は払わなくて良いでしょう.そのぐらいの常識は、訴訟になったときに裁判官も理解すると思います.
その理由、
1) 【文科省】 外部被曝だけで1年20ミリまでOK。
2) 【厚労省】 食材も入れて1年50ミリまでOK
3) 【経産省】 1年1ミリを越えると厳重注意
一体、これは何でしょうか?
完全な国の空中分解です。
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このほか、保安院は「日本国の法律」に基づいて、次のように東電に注意をしています.
1) 一般人の基準が1年1ミリということを忘れたのか!
2) 職業人の被曝は1年20ミリ(3ヶ月で5ミリ)ということを忘れたのか!
3) 職業人が働く管理区域では、線量計の携帯、内部被曝の管理が必要だと言うことを忘れたのか!
もちろん、日本では法律は一つですから、福島県や自治体は、
1) 一般人(それも子供)を1年1ミリ以上被曝させている、
2) 管理区域の人に線量計も内部被曝の管理もしていない、
3) それが現実なら、法律を守る立場から、除染に全力を挙げなければならないのに、限度を上げて被曝させている、
また、練馬区役所(ホームページは改正されたようです)、松戸市などは、「1年100ミリまで大丈夫です」と言い、法律違反をしています.
ある真面目な地方公務員から私に「1年1ミリという法律を教えてください」と依頼が来ました。とても正直で真面目な人なので、この質問は良いのですが、やはり法治国家ですから、国が空中分解していても、公務員は法律を守って欲しいものです。
でも、もう国は無い! 自分で行こう!
(平成23年5月26日 午前11時 執筆)
科学者の日記110526 みんな死ぬのだから・・・という論理を考える
日本の法律では「1年1ミリ」が被曝限度だが、「1年100ミリまで大丈夫」と国、専門家、医師、自治体、新聞記者が言っている.
他の人の意見が自分と異なる時には、
「なぜ、教養も責任感もある人が、自分と違うことを言っているのだろうか」
と考えることが私のやり方だ。
自分が正しいということはない.自分の意見と他人の意見が違うだけだ。
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「1年100ミリまで良い」と言った人は、たとえば、
1) 衆議院の委員会で私と一緒にでた原子力安全委員会の委員の方、
2) 朝日新聞の女性の記者で署名記事を書いた人、
3) 長崎大学の教授で福島のアドバイザーをしているお医者さん、
4) 東工大の若手の女性の原子力関係の研究者(放射線防護)
5) 松戸市のお役人などの地方自治体の人、
などでいずれも蒼々たるメンバーだ。
そのほか、原子力安全委員長、文科省の大臣、厚生労働省、官房長官、教育委員、校長先生、幼稚園の園長さんなどは「子供でも外部被曝だけで1年20ミリまで大丈夫」と言っている.
子供は大人より感度が高いし、外部被曝だけなので、それを考えるとこの人達もほぼ1年100ミリを指示している.
ずいぶん、多い.
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彼らの言うことに耳を傾けてみると、その中心的な考えは、
「人間はどうせ死ぬのだから、放射線で死んでも良い。死亡率は100%、ガンで死ぬ人は30%だから、1年100ミリで0.5%が死んでも問題は無い」
ということだ。
(1年100ミリの被曝で、ガンが0.5%増えるというのは、ほぼ一致している.1億人で1年に50万人の年齢に無関係の新たなガン発生である。)
日本人が30%もガンで死ぬようになったのは、「人生50年」から「人生80年」になり、歳を重ねると遺伝子が傷ついてガンになる確率が増えたことによっている。
だから、最近では「歳をとったらガンになる」ということが判ってきたので、「生活習慣病」などに気をつけてできるだけ発症時期を遅くするようにという方向に進んでいた。
しかし、上記の人たちが発言しておられるように、人間はいつかは死ぬのだから、10才でも、20才でもガンで死んでも良いではないかという論理もなりたつかも知れない。
「健康」に関する思想の大転換である.
人間は最終的には死ぬ。だから人生の目的は死ぬことである.従って、早く死んだ方が早く人生の目的を達成することができるということでもある。
たしかに歴史的に見ることができない、画期的な思想だ。福島原発事故というのがあまりにも大きかったので、このような新しい思想が誕生したのだろう.
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もう一つ、お酒やタバコ、甘い物を食べるなどの生活習慣は「自らが選択できること」(意志)であり、原発からの放射線でガンになるというのは、「他人から強制される」(強制)であるので、その危険性は20倍から1000倍にしなければならないというのが、今までのリスクの考え方だった。
原子力でも、
1) 一般人の1年1ミリに対して、自分の意志で放射線の仕事に就く人はその20倍の1年20ミリ、
2) 原発の敷地境界には誰が来るか判らないので、1年1ミリの20分の1の1年50マイクロシーベルト、
などとなっていた。
たとえばハンググライダーは死亡率の高いスポーツであるが、自分の意志で、丘陵地帯に行って楽しむから許されている.小学校の子供が強制的に体操で実施するには危険すぎる。
同じ行為でも、意志があるかないかで分けるのもこれまでの考えだった。
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つまり、
1) 人間はどうせ死ぬのだから、早く死んでも良い、
2) 意志があっても無くても危険性は同じである、
という新しい考えが提出されている。
私は、このような考えはまだ納得していない。
人間はできるだけ健康で長生きすることが良いと思うし、人間の目的は死ぬことではなく、毎日の生を楽しむことにあると思っている.
また、世の中には危険なこともあるけれど、自分の意志で他人に迷惑をかけないなら(お酒を静かに楽しむなど)、それは人間として許されるが、酒の飲めない人に強制的に飲ませるのはダメという考えだ。
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この衝撃的な新しい哲学は、自己矛盾を含んでいるように見える.それは「福島原発事故が衝撃的であるから、新しい哲学が必要だ」というのだから、「被曝するのは衝撃的だ」ということになる。
なぜ「被曝するのは衝撃的」なのかというと、「健康を害するから」、「ガンになるから」、「ガンになるのは怖いから」ということだ。
従って、新しい哲学が誕生する理由と、その哲学が提示してくれる新しい考えが相互に矛盾していると感じる.
でも、現実には、福島原発が起こって、突然、新しい哲学が提供され、それを多くの指導者や知識人が支持している.
結果的には、この考えによって現在、「子供達を被曝させる」ということになっているが、それも含めて、早い内に新しい考えの方と深い議論をしてみたい。
福島原発の事故が終わったら、ご意見を変えることはないと思うが。
(平成23年5月26日 正午 執筆)
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