検察事務所の檻の中は、一見小さな病院の待合室の様な雰囲気ではありましたが、あくまでもそこは檻の中であり、檻の外では検察事務官が、保釈金の決定やら手続きやらの電話を忙しそうに受けたりかけたりしていて、とても非日常的な光景でした。
檻に入って30分もすると弁護士がやってきて、やたらとニコニコしながら「求刑7ヶ月が3ヶ月で済んで良かったです。3ヶ月なんてあっという間ですから、ちょっと長い休暇をとると思って頑張ってきてください。」などと言いやがりました。(...コイツ、なんかズレてるな。人の気持ちをわかっていない。)そう思いましたが、とりあえずお礼を言い、残金の支払いは妻に話をしてあることを伝えて、あとは弁護士の話にうなずいていました。 弁護士にとってはこれで一件落着かもしれませんが、私にとってはこれから始まるのです。3ヶ月だろうが1ヶ月だろうが、檻の中の長い休暇など誰が望んで行くものか。
それからまたベンチに一人で待ち続け、5時半になってやっと先ほど私をこの檻に放り込んだ検察事務官がやってきました。
「それではこれから拘置所の方に移動します。」と言い、おもむろに手錠を掛けられて、私は1ヶ月ぶりに再び囚われの身になってしまいました。
紙袋に詰められた自分の荷物を持ち、手錠をはめられたまま長い廊下を歩いて、エレベーターを2台乗り継いで外に出ると、待っていた黒塗りのべったりスモークの貼られたワンボックスに乗りました。
後の席には、既に二人乗り込んでおり、一人はスーツ姿でもう一人は手錠をはめられた、ポロシャツ姿の若い男性でした。
車が走り出すと、後部座席のお兄さんはいきなり大声で話し出しました。
「どうしていきなり捕まえに来て、そのまま拘置所なんですか!誰とも連絡とらせてもらえないなんてひどいじゃないですか!たかが交通違反の罰金を滞納しているからって、こんな仕打ちはおかしいじゃないですか!!」
検察事務官と思われる人が、「あなたの気持ちも分かるけど、これが社会秩序を守るための法律であり、規則なんです。」
「法律だろうが規則だろうが、私にも仕事も生活もあるのに、70万払わないだけでいきなり手錠をかけられて拘束されるなんて、おかしいでしょう! このまま拘置所に入って誰とも連絡がとれなくなれば、親も心配するし、会社はクビになるし、アパートだって住めなくなるじゃないですか!!」
しばらくお兄さんは大声でまくし立てていましたが、隣に座る検察の人は極めて落ち着き払った様子で、淡々と「これが法律である」ことを繰り返すだけなので、お兄さんもしまいには静かになり、どうやらシクシクと泣き出してしまったようでした。
話を聞いた様子では、彼は交通違反の罰金を半年滞納して支払わずにいたため、いきなりアパートに検察官がやってきて、手錠を掛けられ拘束されてしまい、そのままこの車で拘置所に連れていかれるようでした。
私も何度か交通違反の罰金を滞納したことがありますが、やはり噂通り逃げ続ければ手錠をかけられて、強制的に労役に服さなければならなくなるようです。
拘置所に入って後からわかったことですが、拘置所内には結構この手の方が入っており、独房の鉄の扉に「労役」の黄色いシールが貼られています。彼らは1日当たり5000円で拘束され、70万であれば140日間拘置所に入らなければなりません。「労役」といっても特に強制労働を強いられるわけではなく、他の受刑者と同じように平日独房内で袋貼り作業をすることになります。しかし、この作業が5000円に当てられるわけではなく、拘置所に拘留されること自体が、1日当たり5000円の計算になります。
後の座席でのやりとりがおさまって静かになった頃、車は首都高の渋滞を抜けて6時半頃高速を降り、巨大要塞の大きな鉄の門をくぐりました。
道は建物の地下に吸い込まれて、また大きな鉄の扉の前で止まりました。15分ほど待つと、扉が開き、地下道を走って広いロータリーを半分回ったところで停車し、私は検察事務官に促されて車を降りました。
10人ほどの制服を着た無表情の看守に囲まれ、体育館のような天井の高い広い部屋に入り、床に貼った白い線の前で立たされ、しばらく待つとカウンターに座る看守に手招きされて、名前、住所等を確認されて、「次に荷物を預けて」と指さされる方に行きました。
そこで私物の一つ一つを念入りに確認し、種類別にビニール袋に入れられて、部屋に持ち込めるものと持ち込めないものを区別されて、持ち込めないものは半透明のプラスチックケースに入れられて、そこでイソイソと働く緑色の作業服を着た受刑者に持ち運ばれてしまいました。
荷物の確認が済むと、今度は別の囲いのある場所に行き、パンツ一丁になると、身長と体重をはかり、視力検査をされました。
そのあと、銭湯の番台のようなところから、「パンツを脱いで、竿をもちあげろ」と言われ、私は「?」と何のことかわからずモジモジしていると、番台に座る看守にジェスチャー混じりで「竿を持ち上げるんだよ!」と怒鳴られ、私はやっと意味が分かり指示に従うと、今度は「後を向いてケツの穴を見せろ」と強い口調で言われ、私は何故かヘラヘラしながら「ハイハイ」と後を向いて中腰でケツの割れ目を開いて見せました。
これは、いわゆる「玉入れ」の確認と、ケツの穴に何かを隠していないか(例えば覚醒剤とか)確認をしているらしく、「玉入れ」とは男性器の竿に真珠などを埋め込んでいないかをチェックしているようでした。
金玉やケツの穴を、このような格好で、何人もの他人様にお披露目したことなど、これまで一度もなかったので、とてつもなく恥ずかしいことではありましたが、これも逆を考えると、看守は毎日何人もの汚い金玉やケツの穴を拝見しなければならず、それもまた辛いことだろうとは思います。
その後、最後に医師による簡単な問診があり、夕食のドンブリが入ったビニール袋を渡されると、他の入所者3人と整列して体育館のような部屋を出ました。
長い廊下を歩き、エレベーターの奥の壁側を向いて乗り、降りてからまた長い廊下を歩いてセキュリティーのかかった扉を開くと、そこには広い廊下の両側に何部屋もの独房が並んでおり、私はそのなかの一番隅の一室に入るように促されました。
とりあえず食事を済ますように言われ、冷えたドンブリ飯とアジのフライのようなおかずを食べ終わり、暫くすると担当の看守がやってきて、ここでの生活を説明するマニュアルを熟読するように言われました。
看守が出て行って重い扉が閉まり、とうとう私はこの3畳一間、囲いのないトイレ洗面台付き、1TSの間取りの独房の住人になってしまったのでした。
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