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2011年1月7日金曜日

グループ運動 「ションベンとミミクソ」

 警察署の留置場では、朝の「運動」の時間に建前上の運動室でタバコを2本吸え、爪切りやひげ剃りが許されましたが、拘置所では当然タバコは吸えません。その代わり午前か午後に30分間の運動の時間が与えられます。
 その時間になると、警備隊という看守とは違った制服とキャップをかぶった隊員が各房を周り「運動!」と呼びかけます。「お願いします」と答えると、暫くして扉が開いて廊下に出され、西側にある運動室まで移動します。居室棟の出口と運動棟の入口で身体検査をされて運動室に入りますが、その時に縄跳びをする人は縄を借りられ、爪切りをする人は爪切りと切ったカスを入れるトレイを借りることができます。
 運動は全天候型の屋根付きの10畳ほどの個室で行いますが、雑居房の人はテニスコート1面分くらいある、広い運動室でランニングをしたりストレッチをしたりします。いずれも屋上以外は屋寝付きですので、太陽を拝むことはできません。ただ、外壁は格子になっているので、3つの棟に囲まれた小さな中庭が見え、そこで植木の剪定作業をする受刑者の姿が見えたりします。
 私は独居房で、体力が衰えないように、毎日かかさず腕立てと腹筋を50回と腿上げ300回をしていましたが、運動室では縄跳びを300回、汗をかくまでやっていました。
 5月19日、入所して9日目に担当看守から「明日から運動の時間は”Lグループ”になるから、運動室の”L”と表示されている部屋に入るように」と言われました。
 次の日の運動の時間、”L”の表示のある運動室に入ると、そこには同じ未決囚の人が4人いて、もう大分馴れ合っているようで、大声で冗談を言いながら楽しそうに話していました。
 私は挨拶と自己紹介をし、無免許運転で3ヶ月の実刑であることを言うと、彼らは笑って「何それ、イヤミじゃん」と言いながら、自分たちが3,4年の求刑をされていることを教えてくれました。彼らによれば、この業界では1年の実刑でもションベン刑と言われるのだから、3ヶ月なんて耳くそ以下だというのです。
 その中の一人、通称「モリさん」はイラン人の43歳で、日本語もペラペラで自国では空手でチャンピオンになったこともあるという、ガタイのいいハゲ頭のおっさんです。(私より年下なのに”おっさん”はないか...)彼はいつも陽気で、誰でもかまわずすぐにワザをかけてきました。彼は4人の中でも古株で、この拘置所にもう4年もいるというのです。
 彼の話では、15年前に出稼ぎ目的で日本に来て、建設現場での仕事をした後、日本人の妻をめとり、自分で都内に中古車屋を開いて結構繁盛していたらしいのですが、4年前にイランに帰国して日本に戻る際に、麻薬を密輸しようとして空港で逮捕され、そのままここに入れられて、裁判で起訴内容を否認し続けているために、今だ未決囚として拘置所生活を送っているとのことでした。
 彼はもう、すっかりこの生活に慣れているらしく、いつもこっそりとアメやお菓子を運動室に持ち込んでみんなに配っていましたが、万が一、見つかったら貰った方も処罰されるので、こちらもドキドキしながら、妻からの差し入れだというイランのアマ~いアメやお菓子ををいただいていました。
 本当かどうかはわかりませんが、彼はここで押尾学やホリエモンも見かけたことがあり、ホリエモンが買った腹筋運動用のストレッチ器具が、保釈の時に寄付されて、今でも屋上の運動室に置いてあるらしいとのことでした。
 他の三人は28歳、31歳、35歳のいずれもごく普通の青年でしたが、三人ともやはり麻薬と覚醒剤で捕まっており、共に初犯だということでした。人の良さそうな優しい顔の35歳の人は、自営でハウスクリーニング業を営んでおり、昔悪かった頃の仲間から無理矢理勧められて、つい覚醒剤を手にしてしまい、打ってもいないのに警察にバレて逮捕されたということでした。会社は当然終わってしまい、刑務所を出たら、また昔の鞘に戻るしかないかもしれないと、悲しげな顔をして話していました。彼は上半身に立派な刺青が入っていました。
 どうやらこの”Lグループ”は、初犯でしかも割と軽い犯罪の人間を集めたグループらしく、モリさんによれば、殺人犯は殺人犯で集められ、犯罪によって分類されているようです。
 私は、この時初めて「ションベン刑」という言葉を知ったのでした。つまり、懲役3,4年の刑の判決でも「死刑」に比べれば「小便刑」であり、3,4年の人から見たら、3ヶ月の刑などミミクソ以下となるわけです。
 
 普段人と話す機会がないせいか、この時間のグループの運動室は、どこも冗談を言って大声で笑っていたりして、楽しげな雰囲気でしたが、私の後から入ってきた、取込詐欺で捕まった30歳前後の人は、Lグループの雰囲気に馴染めなかったのか、一度来たきりその後は別の部屋で一人でいたようでした。
 30分の運動の時間は、笑顔になれる唯一の時間であり、あっという間に終わってしまうのですが、毎日みんなこの時間を楽しみに待っているのでした。

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